⑦自分史を書いて運命振り返り~随想
鯉のぼりが上がり、空は青く高く澄んで、すがすがしい5月。
枯れ木のようになっていたゆすら梅、ぐみも初夏の日をあびて青々とした葉を伸ばして気持ちよさそう。
裏庭のささやかな花畑には、金盞花、撫子、矢車草など、色とりどりの花が咲き、時には蝶も訪れる。此の頃はまたバラの花盛り、赤い垣バラは特に目につく。私の家の垣バラも毎日咲いては散ってゆく。私は花のことは分からないけれど、この垣バラも蕾の頃か一番きれいなように思われる。咲いたと思ったらすぐ散ってしまい、花の命は果てしない。毎年鯉のぼりが上がる頃になると、決まって咲くこのバラも、植えてからもう十五年になる。
思えば、昭和二十五年のちょうど今頃、私達がここに移って来た時、横の畑の垣にと、当時古井戸の側に見捨てられていたもの。私はそのバラを一本ずつ挿したものだった。側が下水溝なので邪魔にならないようにと、少し内側に植えたのだが、今では根元も数本になり、溝の掃除の邪魔になる部分は毎年切る始末。でも当時は毎日のように水をやり枯らすまいとひたすら懸命。
バラは私の心を知ってか、その後順調に伸び花が咲き始めてもう何年になろうか。でもこのバラも小屋を作ったりして、当時の三分の二しか残っていない。やがて小屋を改造すれば、ほとんど除けてしまうかもしれない。
垣バラではあれど、かつては登校の生徒、勤めに行く娘さんや、病床の窓にもともらわれていった。
私が育てただけにバラにも愛情はある。私は今朝溝にこぼれたバラの花を掃き寄せながら、できればバラにこう言いたい。来年もさ来年も、いやその生命の続く限り、何時までもきれいに咲いてくれと。
昭和四十年五月
赤い垣バラ 河野草花(道春)
他に「ふるさとの共同風呂」「はじめて書いた随筆」「厄逃れ」など
長文を読んで頂き、ありがとうございます。爽やかな五月の気候と、祖父が、花好きの祖母のために書いたのではないかと思う随想でした。