冬の句
療養の窓へ月置く冬木かな
とり囲む冬木病舎を静めゆく
此々からは一の滝へと落葉ふむ
枯萩に立てば遥かに海のあり
修業堂よりの木魚や冬の雨
庭に来し鳥も寄り添ひ今朝の冬
絵師一と人冬の土塀に向かひをり
冬空へ吊る鉄骨や河工事
滝音のお堂を包む冬木立
鳥立ちて枯れ蓮に黙戻りけり
風花を残して棺行きにけり
冬めくや狭に(谷に牙)す大工音
昼灯す狭を走れる冬の雷
弥陀の眼の届く参道冬日和
山深き和紙の里なる神楽かな
酛唄のこもる高窓寒造り
天窓に星の張り付く寒造り
托鉢の声一列に冬の梅
寒晴や護摩火の豆の煎り上がり
日脚伸ぶ棚の医学書増えにけり
寒造り灯す一と間の杜氏部屋
石仏の貌それぞれに笹鳴けり
不揃いの葉牡丹山の陽を抱き
枯れるる中奉られて道祖神
短日の桝に盛り売る干し魚
極月の店先占めて研ぎしかな
日短かし鐘を鳴らして当りくじ
地に触れて毘沙門天の寒椿
日脚伸ぶ山師一人のチェーンソウ
乱れ干す魚網乾きて冬ぬくし
蛸一つ乾く市場に師走くる
冬鵙や漁師夫妻の多弁なる
牛糶(う)りて農業祭の小春かな
束の間の冬陽まぶしく点滴す
服薬で始まる一と日師走くる
落葉掃く和尚のかむる目出し帽
お守りも添へて寒中見舞ひけり
逢えばまたときめき話し春隣
三階の雪うつくしく申告す
文読める羅漢もありて冬ぬくし
駄菓子屋のひょっとこ面に聖夜来る