感想その3 水原秋櫻子著「例解俳句作法辞典」
初出は1950年(昭和25年)の本書は、その時代の雰囲気そのままに1990年(平成2年)に再び出版されました。
著者は、お医者さんで、病(やまい)に関する俳句のつくり方をまとめられています。
これを読むと、病院と一口に言っても色々な種類のものがあったことが分かります。
一部抜粋してみますと、
病院
(略)当事者があたたかい心をもっていても、(どこか冷たい)そうした感じを与える。
しかし、塵ひとつないまでに清潔に整頓された病院の感じはまことによいものである。(略)明るい光線を十分とり入れた窓、そこに垂れたカーテン、そうして、ベランダに置かれた一鉢の花----こういう感じが出れば、病院の句は成功するであろう。
療養所(りょうようしょ)
大体、胸の病をもつ人達のための病院という意味がある。海岸、高原、平野その所在地の特色が病院の感じに加わるとよいであろう。
外気舎(がいきしゃ)
胸の病の療養所では、菌が全く出なくなると、外気舎に入れて療養させる。林の中などにある小さな小屋であるが、患者には回復してゆく喜びもあり、かつ、たいてい一人住まいになっているので、自分の家ができたような気持ちもあり(略)ここに入ると誰も句がたくさんできる。(作中より引用)
お医者さんではないと、病院をこのようにまとめられないでしょうし、冷たい印象をくつがえす、患者さんへの温かいまなざしを感じます。
特に印象に残った句を一つ。
試歩の人もろ手にあまる栗もてり 巴人
しほと読みます。
ためしに歩行をゆるされたものがしばらく帰って来ないのを心配してしていたところ、艶々した色の美しい栗を持ち、笑って帰ってきたという句だそうです。
著者の作ではなく、巴人(はじん)という僧侶の句だと思われますが、秋桜子さんもこれに近い体験をされているのでしょう。
この本にはほかにも400句近く紹介されています。
ここで、祖父の句とコラボ
名水に飲む一錠や秋近き
めいすいに
のむいちじょうや
あきちかき
道春
薬を常用しなければならない体で、暑い夏を乗り切ったという喜びを感じました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。